私はインフラエンジニアの業務を全部AIにやらせています
「インフラはAIには無理」という主張とともに、実務レベルのインフラエンジニアの業務13項目が並んだリストが広く共有された。ポータルもコマンドも自分では触らず、13項目すべてをAIにやらせている立場から答える。議論が噛み合わないのは「AIでできる」に3つの層が混ざっているからで、手を動かす/案を出す/判断まで持つ、を分ければ話が始められる。AIが触れない項目はゼロ、手だけ借りる項目もゼロ。作業は完全に任せられ、人間に残っているのはデザイン(設計)。リスクが低ければ全部任せられて、コストだけは人間が確認する。どこまで任せるかはシステムの重要度とリスクで都度決める。そして元の投稿者自身が後から「エンジニアならできて当然」と言い直しており、争点はすでに「誰がやればできるか」へ移っている。
私はインフラエンジニアの業務を全部AIにやらせています
先日Xで、「インフラはAIでできると言っている人がいるが、実務レベルのインフラエンジニアの業務はこれだ」という13項目のリストが回ってきました。結論から言います。私、この13個、全部AIにやらせています。ただし、この話はそこで終わりません。むしろここからが本題です。
解説する人:胡田 昌彦
胡田昌彦です。Microsoft MVPを14年連続で受賞しています。Windows Server、Azure、Azure Hybridが専門で、いまは生成AIを実際の運用に組み込む仕事をしています。今日の話は、意見ではなく、毎日やっていることの報告です。
回ってきた13項目
これが元のリストです。アカウント設計とIAM、ネットワーク、実行基盤、状態を持つミドルウェア、IaCと変更管理、シークレットと証明書、オブザーバビリティ、キャパシティ設計、バックアップとDR、SLOと障害対応、コスト管理、コンプライアンス、そして本番障害の切り分けと復旧判断。よくできたリストだと思います。実務を知っている人が書いています。だからこそ、これを土台に話すのが一番早い。
私はこう答えました
これが実際の投稿です。それ丸ごとできるけどな、私やらせてるけど。ただし、何も知らない人間ができるとは思わないけども。「AIでできる」の解像度を高めないと議論に乗らないかなあ、と。この後半が今日の中身です。できる・できないの二択で話している限り、この議論は永久に終わりません。
自分では、もう触っていません
先に私の作業のやり方を言っておきます。私は、ポータル画面を自分で触ったり、コマンドを自分で打ったりというのを、もう完全にしていません。やってほしいことをAIに伝えて、やってもらうスタイルです。だから13項目を全部やらせている、という言い方になります。これは未来の見通しの話ではなく、今日そうやって仕事をしているという報告です。
「AIでできる」の解像度を上げる
ここから、解像度の話をします。
「できる」には3つの層がある
私の整理では、少なくとも3つの層があります。レベル1、AIが手を動かす。設計と判断は人間がやって、作業だけ渡す。レベル2、AIが設計案を出す。選択肢と根拠を出させて、人間が選ぶ。レベル3、AIが判断まで持つ。人間は結果だけ見る。この3つはまったく別の話なのに、同じ「AIでできる」という言葉で語られています。
議論が噛み合わない理由
なぜ話が噛み合わないのか。できる派はレベル1やレベル2を指して「できる」と言っています。無理派はレベル3を指して「無理」と言っています。どちらも正しい。指しているものが違うだけです。だから「AIでインフラはできますか」という問いは、そのままでは答えられない。レベルを添えないと質問として成立していない、というのが私の立場です。
作業は任せられる。デザインはまだ人間
では13項目を置き直します。項目ごとにレベルが固定で決まる、という話ではありません。分かれ目は、作業なのかデザインなのかです。作業は完全にAIに任せられます。リスクが低いシステムなら、13項目ぜんぶレベル3で回せる。一方でインフラのデザイン、つまり設計は、人間がやるべき領域がまだまだ大きい。AI自体も設計はできますが、案を見て決めるのは人間です。コストだけは、人間が問題ないことを確認する。そしてレベル1、手だけ借りて設計も判断も人間、という項目はゼロです。どこまで任せるかはシステムの重要度とリスクで都度決めますし、そもそも正解がないことも多い。だから固定の割り振りは書きません。
触れない項目もゼロ。LEVEL 1 もゼロ
数えるとこうなります。AIが一切触れない項目は、13個のうちゼロ。手だけ借りて判断は人間、というレベル1もゼロ。13項目すべてがレベル2から3のあいだで動いています。「全部できる」も「まだ無理」も、どちらも同じ現実を別の角度から言っているだけなんです。
争点は、すでに動いている
ここで面白いことが起きました。元の投稿をした方が、後からこう書いています。非エンジニアが開発のようにパッとAIに指示を出してできることはない、ということを言っています。エンジニア経験が長いのであれば、これくらいはAIを使ってできるのは当然なのでは、と。最初は「インフラはAIオンリーでは厳しい」でした。それが「エンジニアならAIでできて当然」になっています。争点は「AIにできるか」から「誰がやればできるか」へ移っていて、これは私が最初の返信で書いた「何も知らない人間ができるとは思わない」と同じ場所です。つまり、解像度を上げれば意見はかなり近い。
プログラマーで起きたことが、起きる
もう一つ言っておきたいことがあります。プログラマーも、AIがプログラムを書くなんて、と言っていました。今はもう、AIに任せていますという人がかなり増えています。インフラだろうと何だろうと、AIが手出しできる領域はいずれそうなります。クラウドはもうそうなってきていますし、オンプレも時間の問題だと思っています。その移動は下の層から起きていて、私の手元ではレベル1がもう空になりました。
整備する動機は、運営元が一番持っている
なぜ境目が動くと言えるのか。必要なものは見えています。スキル集と、AIが読みやすいドキュメントと、典型的なパターンを網羅したリファレンスアーキテクチャ。これがあれば、「やりたいことはこれ」と言うだけで、今のAIの性能でも適切に選んで構築してくれます。では、それを整備するモチベーションが誰に一番あるかというと、そのクラウドを運営しているメガテック自身です。運営元がAIも駆使しながら競い合って、「AIが使いやすいクラウド」にしていく。同時に、クラウド自体へのAI組み込みも進みます。そしてこれはAWSやGCPやAzureだけの話ではなく、M365やGoogle Workspaceも同じで、APIで触れるものすべてに当てはまります。
現場ごとに、違う「時代」がある
ただし、現場でアプリからインフラまで全部がAIで実現されるまでには、特にレガシーアプリの問題が大きくて、ものすごく時間がかかるのも事実です。メインフレームもCOBOLもまだ現役ですからね。そういう意味では、「現場」ごとに異なる「時代」があって、自分に合った現場、つまり自分に合った時代で仕事ができるのかもしれない。AIに全部仕事が奪われるという話には、すぐにはならないと思います。エンジニアとしては、なるべく最先端のことをわかった上で、幅広い時代や流儀に合わせられる人、現場に時代をまたぐ変化を起こせる人が重宝されるだろうなと思います。
経営にも大きな影響がある
経営の話に落とします。インフラ人材が採れない、という相談をよく受けます。でも本当の問題はたいていそこではありません。AIに任せられる層と、任せてはいけない層の境目を、社内の誰も言語化できていない。これが本当の形です。境目が引けていないから、全部人間でやるか、全部AIに丸投げするかの二択になる。どちらも失敗します。今日の3つの層は、その境目を引くための道具として使ってください。
today's takeaway
まとめます。1つ、「AIでできる」には手を動かす、案を出す、判断まで持つ、の3層がある。2つ、13項目のうちAIが触れない項目はゼロ、手だけ借りる項目もゼロ。3つ、作業は完全にAIに任せられる。4つ、デザインは人間がやるべき領域がまだ大きい。AI自体も設計はできる。5つ、リスクが低ければ全部任せられて、コストだけは人間が問題ないことを確認する。6つ、どこまで任せるかはシステムの重要度とリスクで都度決める。正解がないことも多い。
出典
出典です。元の13項目のリストと、私の返信はどちらもXの公開投稿です。概要欄にリンクを置いておきます。
CTA
収録用カンペはこの後ろのスライドにあります。